働き方の選択肢が多様化したこともあり、個人で事業を行う方も増加傾向にあります。
個人で事業を始める際に必要となるのが、「開業届」の所轄の税務署への提出です。
開業届が未提出のままでは、税金の優遇措置が受けられません。事業者としての金融機関への口座開設も難しくなるなどのデメリットが発生する可能性も。
この記事では、開業届にまつわる次の項目を解説します。
・開業届の提出は事業開始日から1ヶ月以内
・開業届の提出に必要な書類
・開業届の書き方
・開業届の入手から提出までの流れ
・開業届に関するその他の知識および注意点
- 現時点では自営業以外の形で勤務している方で、将来的に開業を希望する方
- 開業届の書き方や提出の流れを把握したい方
- 確定申告で青色申告を選択したい方
開業届の提出は事業開始日から1ヶ月以内
個人事業主やフリーランスの方が開業届を提出するタイミングは、事業開始日から1ヶ月以内です。
事業所や店舗が所在する所轄の税務署が開業届の提出先となります。
確定申告にて青色申告を選択したい方は、開業届とともに青色申告承認申請書を提出しておきましょう。
開業届が未提出ならどうなる?
開業届が未提出の場合、次の3つのメリットが得られなくなります。
青色申告特別控除
青色申告特別控除とは、開業届と青色申告承認申請書の提出にて受けられる所得税の優遇措置です。
-
開業届と青色申告承認申請書の提出にて受けられる所得税の優遇措置
最大で65万円+48万円(基礎控除額)=113万円がその年の所得より控除されます。
控除額 | 記帳方式 | 主な提出書類 | 申告方式 | |
---|---|---|---|---|
白色申告 | 基礎控除額のみ | 単式簿記 | 収支内訳書 | 書類提出 郵送 e-tax |
青色申告 (10万円控除) | 基礎控除額+10万円 | 単式簿記 | 青色申告決算書 ※損益計算書 | 書類提出 郵送 e-tax |
青色申告 (55万円控除) | 基礎控除額+55万円 | 複式簿記 | 青色申告決算書 ※損益計算書 ※貸借対照表 | 書類提出 郵送 e-tax |
青色申告 (65万円控除) | 基礎控除額+65万円 | 複式簿記 | 青色申告決算書 ※損益計算書 ※貸借対照表 | e-tax |
特に漫画家や小説家、作曲家やシンガーソングライターなどのように突如ベストセラーやヒット曲が生まれた際、青色申告特別控除の有無にて納税額が大幅に異なるのは確かです。
エンジニアなどの職種においても、事業の拡大や取引先の増加による収入(売上)のアップも想定されます。
納める所得税が多くなりますと、翌年に納める住民税や国民健康保険料も増額するため、税金を支払うだけで四苦八苦することもあり得ない話ではないでしょう。
資金調達の計画にも影響を及ぼすかもしれません。
税金(所得税)の優遇措置を受けるためにも、開業届と青色申告承認申請書を「確実に」提出しておくことをおすすめします。
各種助成金の申請
国や自治体にて、起業を支援する目的で各種助成金が設けられています。
個人事業主やフリーランスが助成金を受け取るための条件として、開業届と青色申告がセットとなっていることが大半です。
繰越控除
青色申告を選択した方が得られるメリットです。
赤字が発生した年度に「繰越控除」を利用することで、3年間に渡って損失の繰り越しが認められます。
開業届の提出に必要な書類
個人事業主やフリーランスが開業届を提出する際、必要となる書類などは次のとおりです。
個人事業の開業届出・廃業届出書
一般的に開業届と呼ばれているのが、「個人事業の開業届出・廃業届出書」です。
税務署や市区町村役場にて入手するか、次のリンク先よりダウンロードすると良いでしょう。
印鑑
開業届に押印(捺印)した印鑑を持参することをおすすめします。
訂正などが求められた際に対応することが目的です。
個人番号(マイナンバー)の証明書
開業届に記載したマイナンバーと照らし合わせるための書類も必要となります。
- マイナンバーカード
- マイナンバーの通知カード
- マイナンバーが記載された住民票の写し
本人確認書類
本人確認書類は、マイナンバーカード以外を選択する際に提示が求められます。
- 運転免許証
- パスポート
- 各種健康保険証
- 在留カード
- 身体障害者手帳
青色申告承認申請書
開業届と同時に青色申告承認申請書を提出すると忘れずに済みます。
青色申告承認申請書は次のリンク先からのダウンロードがお手軽です。
開業届の書き方
開業届には以下の項目が設けられています。
そのすべての項目に記入および選択することで、開業届の完成です。
- 税務署名
- 提出日
- 納税地
- 上記以外の住所地・事業所等
- 氏名・生年月日
- 個人番号
- 職業
- 屋号
- 届出の区分
- 所得の種類
- 開業・廃業等日
- 開業・廃業に伴うと届出書の提出の有無
- 事業の概要
- 給与等の支払いの状況
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書の提出の有無
- 給与支払を開始する年月日
- 関与税理士
税務署名
事業所や店舗の所在する地域を管轄する税務署の名称を記載します。つまり、開業届の提出先ということです。
所轄の税務署をチェックしたい方は、以下のリンク先から確認してください。
提出日
開業届を税務署に提出する日を記入します。西暦と和暦のいずれかを選択してください。
- 2022年1月31日
- 令和4年1月31日
後に記載する「生年月日」と合わせたい方は、和暦で記しておくと良いでしょう。
納税地
納税地は事業所や店舗、自宅の所在する「住所地」を選択するのが基本です。
「居所地」は日本国内に住所登録をしていない方で、別荘などの形で日本に滞在する場所が対象となります。
「事業所等」は「住所地」以外の店舗やオフィスなどを「納税地」としたい際に選択する項目です。
- 所得税・消費税の納税地の変更に関する届出書
「居所地」や「事業所等」を選ぶ方は、「所得税・消費税の納税地の変更に関する届出書」の提出が別途求められます。
「所得税・消費税の納税地の変更に関する届出書」のダウンロードは、次のリンク先より可能です。
国税庁[手続名]所得税・消費税の納税地の変更に関する届出手続
上記以外の住所地・事業所等
自宅以外に事業所や店舗を所持している方のみ記入する項目です。
- 「納税地」に自宅の住所を記載した方⇒店舗や事業所の住所
- 「納税地」に店舗や事業所の住所を記載した方⇒自宅の住所
電話番号は、固定電話や携帯電話、もしくはIP電話(050~)のいずれかを記載します。
氏名・生年月日
開業届を提出する方の氏名および生年月日を記します。
2021年4月1日以降は開業届への押印や捺印は不要です。
窓口での万が一のトラブルを回避したい方は、念のために押印しておきましょう。
個人番号
マイナンバーカードや通知カードなどに記載されている「個人番号」を記入する欄です。
職業
職業欄には、ご自身の職業を記入します。
職業名をどう記したら良いのか迷う際には、以下のリンク先を参考にしてください。
- 個人事業税
職業や年間所得によっては、個人事業税(地方税)が課せられます。
- 年間所得:290万円以上
- 第1種事業、第2種事業、第3種事業に該当する業種
開業届に職業欄が設けられているのは、個人事業税の対象であることの確認と、業種ごとの税率が異なることが理由です。
もっとも、大半の業種が含まれているため、当てはまらない業種を探すほうが難しいかもしれません。
屋号
「○○商店」などの「屋号」を記載する欄です。
屋号を所持する方が対象となります。
届出の区分
開業届なので、「開業」にチェックを入れます。手書きの場合には、「開業」の箇所を丸で囲んでおけばOKです。
親族などから事業を引き継いだ場合には、引き継ぎを受けた先の住所および氏名を記します。
所得の種類
ほとんどのフリーランスや個人事業主の方は、「事業所得」を選択しておけば問題ありません。
- 不動産所得⇒土地や建物の売買や賃貸による所得
- 山林所得⇒山林の伐採もしくは立木の譲渡による所得
不動産投資などの収益がある方は、不動産所得を選択する形です。
山林所得は山林を所有し、林業を営む方などが該当します。
開業・廃業等日
開業日を記載する欄です。
開業届の提出期限が、開業日より1ヶ月以内と定められていることがその理由です。
開業・廃業に伴うと届出書の提出の有無
開業届と同時に「青色申告承認申請書」を提出する方は、「有」にチェックを入れます。
消費税に関する「課税事業者選択届出書」は「2年前」の売上や収入が1千万円を超えた方が対象となる書類です。
開業届=「開業のための届け」のため、2年前には売上が存在しないかと思われます。そのため、「課税事業者選択届出書」の欄は「無」で問題ありません。
事業の概要
事業内容をできるだけ具体的に記載する欄です。
基本的には現時点で「収入を得ているもの」を記しておけばOKです。
- 動画制作および配信
- イラストの作成
- データの作成
- インターネットを介した物品の販売
- WEBサイトの作成および運営
将来的に収益が見込めるものを記載するのも良いかもしれません。
給与等の支払いの状況
従業員(パートやアルバイトを含む)を雇用する方が対象となる項目です。
- 専従者・使用人
専従者には家族(親や配偶者、15歳以上の子ども)が当てはまります。「使用人」は家族以外の方を雇用する際の名称です。
専従者への給与を経費として計上したい場合には、「青色専従者給与に関する届出書」を開業届とともに提出する必要があります。
- 給与の定め方
給与の定め方には「月給」または「日給」と記載してください。
ボーナスを支給する場合にはその旨も記しておくと良いでしょう。
- 税額の有無
税額の有無は、従業員の給与から源泉所得税が発生するか?否か?を確認する欄です。
- 月給で8万円を超えている従業員が存在する⇒「有」
- 従業員全員の月給が8万円以下⇒「無」
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書の提出の有無
「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出する方は「有」を選択します。
提出しない方は「無」を選びましょう。
前述した「税額の有無」にて「有」に該当する常時従業員数10名未満の個人事業主は、開業届と同時に「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」の提出をおすすめします。
「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」が受理された後には、毎月10日に納める源泉所得税を、年2回にまとめて納めることが可能です。
源泉所得税の納付期限 | |
---|---|
申請書の提出事業者 | 1月から6月までの源泉所得税:7月10日 7月から12月までの源泉所得税:翌年の1月20日 |
申請書の未提出者 | 源泉徴収を行った月の翌月10日まで |
「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」は、以下のリンク先よりダウンロードできます。
給与支払を開始する年月日
従業員を雇用し、給与の支払いが発生する個人事業主が対象となる項目です。給与の支払開始日が決定している場合のみ記入します。
給与支払いの開始日が決まっていない際には空欄でも問題ありません。
開業届と同時に「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出する場合には、「給与支払いの開始日の前月」までが期限となるためご注意ください。
関与税理士
開業届の作成を自身で行った方は空欄にしておきましょう。
税理士に開業届を作成してもらった方に限り、税理士本人が名前や連絡先を記載する項目のためです。
開業届の入手から提出までの流れ
開業届の手続きは、「入手」⇒「記入」⇒「税務署への提出」で完了します。
開業届の入手先
開業届の入手先には次の3種類があります。
- 税務署
- 市区町村役場
- 国税庁のサイトよりダウンロード
開業届の記入
「開業届の書き方」にて紹介した手順で記入していきましょう。
各種書類などのリンク先を次の表にまとめています。
種別 | リンク先 |
---|---|
青色申告承認申請書 | 国税庁[手続名]所得税の青色申告承認申請手続 |
税務署の所在地 | 国税庁「税務署の所在地などを知りたい方」 |
納税地の変更 | 国税庁[手続名]所得税・消費税の納税地の変更に関する届出手続 |
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 国税庁[手続名]源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請 |
青色専従者給与に関する届出書 | 国税庁[手続名]青色事業専従者給与に関する届出手続 |
開業届の提出
開業届に必要事項をすべて記入できましたら、所轄の税務署に開業届を提出します。
開業届の提出に関する手数料は「無料」です。開業届の受付時間は、平日の8時30分より17時まで。
土日祝日の場合には、時間外収受箱への投函や郵送による提出も可能です。
時間外収受箱は郵送の場合には、次の書類を封筒にまとめて入れたものを提出します。
- 開業届(正本1通、控え1通)
- マイナンバーカードの写し
※またはマイナンバーが記載されている書類と本人確認書類の写し
- 郵便切手を貼った返信用封筒
※普通郵便料金
- 青色申告承認申請書
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
※従業員10名未満を雇用し、給与の支払いを行う個人事業主
開業届に関するその他の知識および注意点
開業届に関するその他の知識および注意点として、次の3つの項目をご紹介します。
青色申告承認申請書について
青色申告承認申請書の書き方は、開業届の書き方とおおむね一緒です。
そのためここでは、開業届では登場しない項目のみ取り上げます。
- 過去に取り消しを受けた方⇒「有」にチェック
- 過去に取りやめをしたことがある方⇒「有」にチェック
- 初めて青色申告承認申請書を提出する方⇒「無」にチェック
開業届とともに提出する方は、「無」が大半なのではないかと思われます。
- テ1月16日以降に新規開業の場合⇒年月日を記入する
- すでに開業している場合⇒空欄のままで問題ありません
- 相続による事業承継の有無
-
親族から相続によって事業を引き継いだ方は、「有」にチェックを入れてから、相続開始年月日と被相続人の氏名を記入します。
相続とは関係なく事業を開始する方は、「無」にチェックを入れておきましょう。
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青色申告を選択したい方は「複式簿記」にチェックを入れます。
- 現金出納帳
- 売掛帳
- 買掛帳
- 経費帳
- 固定資産台帳
- 預金出納帳
- 総勘定元帳
- 現金出納帳
上記の帳簿類は市販の会計ソフトで作成することも可能です。
控えの受け取りについて
開業届は、正本1通と控え1通の2部を作成することが基本です。
提出時には窓口の担当者より、開業届の控えに対して受け取りを示すための印鑑が押印されます。
開業届の控えは、銀行などの金融機関にて提示する機会があるかもしれません。
- 事業用口座の新規解説
- 事業用資金の融資
忘れずに開業届の控えを受け取り、保管しておきましょう。
マイナンバー制度との兼ね合いについて
開業届には、マイナンバー(個人番号)を記入する欄が設けられています。
ダウンロードした開業届や複写式の開業届には、控えには個人番号が記載されません。個人番号の外部への漏えいを防ぐことがその理由です。
税務署の窓口にて個人番号の確認のため、以下の書類の提示が求められます。
- マイナンバーカード
- マイナンバー通知カード
- マイナンバーが記載されている住民票の写し
マイナンバーカード以外の場合には、本人確認書類として運転免許証などの提示が必要です。
まとめ
ここまで、開業届にまつわる次の項目を紹介してきました。
- 開業届の提出は事業開始日から1ヶ月以内
- 開業届の提出に必要な書類
- 開業届の書き方
- 開業届の入手から提出までの流れ
- 開業届に関するその他の知識および注意点