IT業界では業務委託という仕事のやり方があります。
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社内の業務の一部を社外のフリーランスや企業に委託すること
IT業界に入る際、最初は誰でもIT関係の会社に入社し、そこの従業員として仕事を始めます。
その場合、当然ながら、あなたの所属会社は仕事の発注先から、あなたの行った仕事に対して報酬を受け取ります。
しかし所属会社も利益を出さなければなりませんので、発注先から払われた報酬が、そのまま全て、あなたの給与となる訳ではありません。
これは会社員として仕事をする場合、やむを得ないことです。
ですが、出来れば「発注先から支払われた報酬を全て自分の収入にしたい」と考える方もいます。
その場合、所属会社を離れ、個人として事業を開始し仕事の発注先と業務委託契約という契約を結べば可能となるのです。
もちろん簡単ではありませんが、経験を積み、信頼を得ているITエンジニアであれば可能なことなのです。
そこで業務委託、個人事業主というものについてご説明致しましょう。
個人事業主とは?
個人事業主とは法人(いわゆる会社組織)ではなく個人で事業を営んでいる人のことを指します。
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個人で事業を営んでいる人のこと
この場合、必ずしも「自分1人だけ」とは限りません。家族や別途に雇った従業員がいても良いのです。
しかし「自分で事業を行っている」以上、会社員ではないので給与はありません。あくまでも自分で事業を営んで、そこから得た収益が収入となります。
つまり事業で得た収益が大きければ高収入となりますが、仕事が取れなければ収入はありません。
つまり本人の能力によって収入が多くもなり少なくもなるのです。会社員の場合、安定した給与が期待できる一方、高収入を得るのは簡単ではありません。
どこの会社にも給与規定というものがあり、それに乗っ取った形でしか給与は上がらないからです。
しかし自分で事業を営む個人事業主は自分の能力次第で一気に高収入を得ることも可能になるのです。
働き方 | 収入の違い |
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会社員 | 安定した給与が見込めるものの、高収入を得ることは厳しい |
個人事業主 | 本人の能力次第で高収入が得られるものの、仕事が取れないと収入ゼロの可能性がある |
業務委託とは?
業務委託契約とは、会社業務の一部を社外に委託する契約を指します。
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会社業務の一部を社外に委託すること
この場合、委託する相手は「別の企業」であることもあり「個人」であることもあります。
つまり個人であっても企業と同じ立場で業務委託を受けることが出来るのです。
ですが「個人で業務委託を受ける」場合、その個人は自動的に個人事業主となりますので「個人事業主の開業届」というものを出さなければなりません。
業務委託の背景
何故、企業は自社の業務を社外に委託するのでしょうか?
それは会社業務を社員を雇って行わせる場合、会社は多くの法的義務および金銭的負担を追わなければならないからなのです。
いくつか例を挙げてみましょう。
社会保険料や労働保険料の負担
会社が社員を雇う場合、会社は毎月、その社員の社会保険料や労働保険料の一部を負担しなければなりません。
- 社会保険料
- 労働保険料など
これは法律により決められていることですので守らねばなりません。これは、雇った社員が給与に見合った成果を上げようが、上げていまいが関係なく負担しなければならないのです。
つまり社員を雇うというのは会社側から見れば「毎月、必ず一定の支出が発生してしまう」ということなのです。
ですので、会社側としては社員の数を増やせば増やすほど「毎月の一定負担額が増える」結果となってしまうのです。
法的義務の存在
労働基準法、安全衛生法により、法人(つまり会社)は雇った社員に対して法的な義務を負います。例えば「有給休暇を与えること」。
有給休暇というのは、その社員が仕事を休んでいても給与を支払わねばならないので会社側は、その分の給与を全額負担しなければなりません。
また雇った社員が、給与に見合った成果を上げられなくても定められた給与は支払わなければなりません。
また仕事をしている最中に事故や災害が起きて社員が被害を被った場合、労働災害と認定されればその社員が仕事をすることが不可能になっても、ずっと面倒を見なくてはならないのです。
また会社は社員に年1回の健康診断を受けさせることを義務付けられていますが、これも費用は全て会社負担です。
- 有給を与える(給与の全額負担)
- 成果を出していない社員にも給与を保証する
- 労災後の対応
- 健康診断の費用負担など
このように社員を雇うというのは会社にとって、沢山の法的義務を負い、それに伴う費用も負担しなければならないことなのです。
こういった「社員(正社員)に対して負わなければならない義務、費用」を削減するために会社は短期のパートやアルバイトを雇ったり、外注したりして正社員の人数を抑える必要があるのです。
業務委託というのも、こういった「会社が社員(正社員)に対して負わなければならない義務、費用」を削減するための1つの方法なのです。
個人事業主と開業届
企業から個人で業務委託を受けた場合、その個人は個人事業主となるので「個人事業主開業届」というものを所轄の税務署に提出する必要があります。
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税務署に個人事業を開業したことを申告する書類
この届は開業してから一か月以内に出さなければならないことになっています。
会社員は会社が年末調整という形で所得税の申告を代行してくれますが、個人事業主は自分自身で確定申告をいうものを例年2月から3月の間の指定された期間内に行わなければなりません。
一見、面倒な作業ですが個人事業主の場合、確定申告にあたり税務署に提出する書類、提出方法などの規定を満たせば青色申告というものが可能になります。
青色申告は控除という「収入から無条件に差し引いて良い金額」が普通の申告(白色申告)より多くなるので払うべき所得税が少なく済むという利点も生じます。
- 65万円
- 55万円
- 10万円
また必要経費や仕事に使うために購入したPC、プリンター、スキャナーなどの機械類も収入から差し引くことが出来るようになるため、しっかり心得ていれば会社員よりも払うべき所得税が少なく済むという利点もあります。
業務委託で結ぶ契約
よく「業務委託契約」と呼ばれますが、これは正式な法律用語ではありません。
いわば「通称」です。
一般に業務委託契約と呼ばれるものは「請負契約」または「委任(準委任)契約」というのが正式名称です。
その違いをご説明しましょう。
請負契約
請負契約とは作業をした結果、出来上がる「成果物」に対して報酬を支払う契約です。
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「成果物」に対して報酬を支払う契約
それは「仕様書」であったり「プログラム」であったりしますが契約で定められた「成果物」を責任を持って仕上げることに対し責任を持ちます。
従って成果物に何等かの瑕疵があった場合、予定が遅延した場合には発注側は請負契約を結んだ相手に対し修理・修正や補償、損害賠償を要求することができます。
委任(準委任)契約
委任(準委任)契約は成果物ではなく、労働を提供することを約束する契約です。
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労働を提供することを約束する契約
委任と準委任がありますが、法律に関する業務を委託する場合を「委任契約」、それ以外の業務を委託する場合を「準委任契約」と言います。
委任契約 | 法律に関する業務 |
準委任契約 | 法律に関する業務以外の業務 |
ですので、IT業界では準委任契約に該当する契約の方が圧倒的に多いことになります。
こちらの契約の場合、報酬は労働時間数で決められたり日給として定められることが、ほとんどです。
業務委託と独立開業の違い
自営業とは「自ら事業を営む人」のことを意味しますので、業務委託契約を結んで個人事業主として仕事を始めると職種的には「自営業」に含まれます。
しかし、一般的に「独立開業」というのは店舗、事務所を構えて事業を始めることを指すので業務委託契約で仕事を始めた個人事業主を「独立開業」の範疇に含めることは、あまりありません。
しかし実質的に「自ら事業を営む」ことになりますので「独立開業」と言っても決して間違いではありません。
個人事業主は会社という組織を離れ独立して事業を始めたのですから、独立開業と称しても間違いではないのですが、「慣行」として「店舗、事務所を構えて開業した場合」を独立開業と称しているのです。
「独立開業」と言う言葉は法律で定められた用語ではなく世間一般で何となく通用している呼び方ですので、あまり業務委託契約による個人事業主との違いを意識する必要はありません。
個人事業主への業務委託の流れ
委託元と委託先が合意し業務委託契約を結ぶことになった場合の契約手順を流れに沿ってご紹介します。
契約内容の話し合い
まず最初は契約内容を話し合い、詳細な点までしっかり決めておく必要があります。
以下に契約を結ぶ際に考慮すべき事項を以下に列挙してみます。
業務内容・範囲
業務内容・範囲はよくトラブルになる内容です。双方の認識違いが起こらないように確実に分かりやすく明記します。
ここの明記が曖昧だとトラブルになりやすいので、出来るだけしっかり線を引くことが重要です。
報酬の対価となるものの明確化
「請負契約」では成果物、「委任(準委任)契約」では労働の範囲を定めます。
報酬の対価 | |
---|---|
請負契約 | 成果物 |
委任(準委任)契約 | 労働の範囲 |
ともに「対価となるものの最終確認の方法」、具体的には「誰の検収をもってOKにするか」についても決めておきます。
成果物に対する権利
「請負契約」の場合、成果物の著作権や知的財産権の帰属先を定めます。
一般的には発注先に帰属することが多いものです。
ですので、この規定がある場合、受注側は納品した成果物と同じものを他の会社に提供することはできないので注意が必要です。
納期・契約期間
請負契約では納品日を記載します。
「委任契約/準委任契約」では契約期間とともに、契約の自動更新の有無等についての取り決めも記載することが多いです。
支払の時期と方法
請求月の翌月末や翌々月15日など、支払時期、支払方法について具体的に明記します。
契約解除の規定の有無
もし問題やトラブルが起きた場合に対応できるように、契約書に契約の解除条件を規定しておくことがあります。
この規定があれば契約期間内であっても契約解除が可能になります。
例えば契約期間内に病気、けが、自然災害等により不可抗力的に作業が出来なくなった場合などを規定しておくと契約違反ではなく契約解除で済みますので入れておくことをお勧めします。
損害賠償の規定
万一に備え、発注元、発注先のいずれかに契約違反があった場合の責任範囲と損害賠償額について定めておくことがあります。
瑕疵担保責任の有無
おもに「請負契約」での記載事項です。
瑕疵(ミスや欠陥)にあたる内容や範囲、納品後の瑕疵が発覚した場合の対応期間を定めます。
禁止事項
業務において禁止すべき内容を記載します。
機密情報や個人情報の扱いについての内容が主ですが、発注元会社の社内規定に基づくものが記載されることもあります。
個人所有のUSBメモリーの開発現場への持ち込み禁止等は現在では常識ですが、それでも記載されることがあります。
また近年はセクシャルハラスメントについての禁止事項が明記されることもあります。
契約書作成
話し合いの結果を書類にまとめ、契約書を作成します。
これは発注元、発注先のどちらが作っても構わないのですが、どちらが作成するかについては決めておきましょう。
契約書の内容確認
作成された契約書類の記載内容に問題がないかを発注元、発注先の双方で確認します。
契約書の製本
双方の確認で問題が無ければ契約書類を製本し2部、作成し最終的な契約作業を行います。
契約作業は発注元、発注先が2部の製本された契約書類に割印を押すことで行われます。そして発注元、発注先の双方が1部づつ保管します。
この2部は、よく正、副と呼ばれますが一般的に作業を発注する側が正、発注を受ける側が副を保管します。
なお日本ではこういった契約においては印紙を貼付し両者が割印を押すよう定められています。
業務委託契約の契約書は「第7号文書」とされており、第7号文書においては4000円の印紙を貼付することになっているので覚えて置いて下さい。
一般的にこの印紙代は正を保管する側が負担することが多いのですが、事前の決めで折半ということもあります。
業務委託先の個人事業主・フリーランス人材になるには
企業から業務委託を受け個人事業主として働くには「委託してくれる発注元」を見つける必要があります。以前までは、それまで手掛けていた仕事を引き続き業務委託という形で継続する、という形が多かったのですが、そのやり方だけでは限界があったのも事実です。
状況が変われば、それまで必要であった人材も変わってしまうからです。
しかし現在ではエージェントサービスというものがあり、発注元と発注先を結び付けてくれるサービスを提供する会社も出てきています。
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個人と仕事を発注する企業との間を、コンサルタントが仲介するサービス
これまでの終身雇用制に準じた雇用形式に変わり、アウトソーシングして自社の業務を外注化する企業が増えているからです。
特にIT系業務に、その傾向が強く、例えばフォスターフリーランスという会社ではIT業務を26職種にも細分化して引き受けてくれる人材を募集しています。こういったエージェントサービスを利用すれば発注元を見つけるのは難しくないでしょう。
但し、個人事業主というフリーランスの人材になるには、まず、なによりも実力と信頼性が必要です。個人事業主は全てを自分1人で行わなければならないため、実力と経験がまず必要です。
また継続的に仕事を得ていかないと収入が不安定になってしまいますが、継続的に仕事を得るには、実力とともに発注元の信頼を得ることが不可欠です。
- 実力を上げる
- 経験値を上げる
- 信頼を得る(社会人としてのマナーを怠らないなど)
つまりITの知識、技術はもちろん必要ですが、社会人としての常識やマナーも必要なのです。
以前に比べるとフリーランスのIT人材は増加しており、発注元から見ると「いくらでも他に選択肢はある」のです。ですので、なるのは簡単ですが継続させるのは簡単ではありません。
そのためには他のフリーランス人材よりも優れた「何か」を身に付けておく必要があります。発注元から「〇〇さんでないとダメだ」と言われるようでなければならないのです。
そういう人材になれてこそ、始めてフリーランスで高収入を得られるのです。
他の人材よりも優れた「何か」を身に付けましょう。それはIT技術、知識だけではありません。業務知識、全体をまとめる力、難題を解決する論理的思考能力など色々です。
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他社よりも優れた「何か」を身につける
自分の長所を把握し伸ばしましょう。また新たな知識や手法の獲得のために勉強もしましょう。
他のフリーランス人材がまだ知らない新しい技術を使えるなら、それだけ大きなアドバンテージが得られるからです。
まとめ
これまでのSierを中心としたトップダウン形式の大型開発プロジェクト、という開発形式がかわりつつある中、優れたフリーランスのIT人材は、どの企業でも引っ張りだこです。
何しろ、費用と手間のかかる「正社員」と違い、必要な時だけ必要なことをしてくれるフリーランスの人材は非常に効率的だからです。
またフリーランスの個人事業主は、いわば「一国一城の主」でもあり、仕事と収入がダイレクトにつながっているので仕事へのモチベーションはいやでも高くなります。
しかし競走相手がいることを忘れてはなりません。
発注する側は「誰に発注するか」の選択権を持っているのですから、常に自分を磨き、他のフリーランス人材との差別化を意識しておく必要もあります。
また社会人としての常識やモラルを守るのは「当然のこと」と思われていることを忘れてはなりません。
いくら仕事が出来ても社会人としての常識、モラルが欠けている人に発注元が仕事を発注してくれることは、まずないからです。