派遣の雇用形態として、過去には一般派遣と特定派遣の2種類が存在していた時期がありました。
2015年9月30日に施行された労働者派遣法の改正により特定派遣が廃止。
以降は「政令で定める26業務」に指定されていた業務(特定派遣)の雇用期間が、一般派遣と同様の3年間に変更され、派遣業界にとって大きな変化および影響を与えました。
この記事では、一般派遣と特定派遣の違いや特定派遣が廃止になった理由、特定派遣の廃止による派遣会社の対応に関する以下の項目を解説します。
- 派遣やフリーランスの雇用形態に興味を持つ方
- 一般派遣と特定派遣の違いを知りたい方
- 特定派遣の廃止による影響に関心のある方
- 特定派遣の廃止に係る派遣会社の対応について知りたい方
特定派遣とは?
特定派遣とは、「政令で定める26業務」に該当する業種を対象とした派遣制度です。
最初に派遣会社の正社員(常用雇用契約の締結)となってから、派遣先の派遣社員として業務を遂行します。
派遣期間は原則的に「無期限」のため、同じ職場(派遣先)で仕事を継続することが可能です。
政令で定める26業務 | 業務内容 |
---|---|
1号:ソフトウェア開発 | システムやプログラムの設計および保守 |
2号:機械設計 | 機械や器具、装置や機械設備の設計や製図 |
3号:放送機器等操作 | テレビやラジオの放送番組に使用する録音や録画などの機器の操作 |
4号:放送番組等演出 | テレビやラジオの放送番組の演出 |
5号:事務用機器操作 | 電子計算機(パソコン)やタイプライターおよびテレックスなどの事務用機器の操作 |
6号:通訳、翻訳、速記 | 外国語の通訳や翻訳、インタビューや会見などの記録を目的とした速記 |
7号:秘書 | 法人代表者などの秘書 |
8号:ファイリング | 文書や磁気テープなどの管理や保管、作成やファイリング |
9号:調査 | 新商品の開発や販売のための計画を作成するための市場調査の整理や集計したデータの分析 |
10号:財務処理 | 事業の財務状況を示す貸借対照表や損益通算書などの書類作成や財務に係る処理 |
11号:取引文書作成 | 外国との貿易や対外取引に係る貨物引換証や契約書を含む文書の作成 |
12号:デモンストレーション | 製品の操作方法や特徴の説明や紹介 |
13号:添乗 | パッケージツアーなどの旅行添乗員や送迎サービス |
14号:建築物清掃 | ビルなどの建物の清掃 |
15号:建築設備運転、点検、整備 | 建築設備の運転や点検および整備 |
16号:案内・受付、駐車場管理等 | 博覧会場などの建築物の案内や受付、駐車場の管理 |
17号:研究開発 | 科学や科学に関する知識の応用による新製品や製品の製造方法の開発 |
18号:事業の実施体制の企画、立案 | 事業の実施に必要な運営方法や体制の整備に関する企画や立案および調査 |
19号:書籍等の制作・編集 | 出版物(雑誌、書籍など)の制作に係る編集 |
20号:広告デザイン | 商品やパッケージ、商品やサービスの販売促進を目的とした広告物や販促物のデザイン |
21号:インテリアコーディネータ | 建物内の照明器具や家具などの配置やデザインに関する相談や考案 |
22号:アナウンサー | テレビやラジオなどの放送番組の司会やニュースを含む原稿の朗読 |
23号:OAインストラクション | 事務用機器の操作方法やシステムやプログラムの使用方法の指導および教授 |
24号:テレマーケティングの営業 | 電話や電気通信などを用いて商品やサービスの説明や相談、販売や契約に導く勧誘 |
25号:セールスエンジニアの営業、金融商品の営業 | 顧客の考案に基づく商品やサービス、金融商品の説明や相談、販売や契約に導く勧誘 |
26号:放送番組等における大道具、小道具 | テレビのドラマやバラエティ番組などで使われる大道具や小道具の製作や調達、配置や設置、搬入や搬出 |
一般派遣とは?
一般派遣は、前述の特定派遣に該当するものを除いた業務を行うための派遣制度です。
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特定派遣に該当するものを除いた業務を行うための派遣制度
派遣会社への「登録」をした後に、派遣労働者として紹介された派遣先にてスポット的に雇用されます。
一定以上の能力が求められる業務のほか、引っ越しやオフィスの移転作業などの一時的に人員が必要なケースにて、補充人員として採用されるものも含まれます。
一般派遣と特定派遣の違い
一般派遣と特定派遣の違いを次の表にまとめています。
一般派遣 | 特定派遣 | |
---|---|---|
雇用形態 | 派遣会社への登録制 ※アルバイト、パートタイマー | 派遣会社との常用雇用契約 ※正社員など |
業務内容 | 多種多様。スキルがあまり問われない業種が含まれる | 主に専門職 ※政令で定める26業務 |
雇用期間 | 派遣先との契約期間に基づく ※1日~月単位、最長3年間 | 無期限 ※年単位での勤務も可能 |
健康保険 | 派遣会社の健康保険 ※国民健康保険のケースも有り | 派遣会社の健康保険 |
収入 | 派遣先との契約や本人のスキルによって異なる | 一定収入の継続が期待できる |
「派遣」のイメージで定着しているのは、「一般派遣」ではないかと思われます。
派遣会社の担当者との簡易な面談と登録の後に、各々のスキルに応じた派遣先を紹介されるパターンです。
派遣先との契約は1日から数ヶ月単位、最長でも3年間の雇用期間となっています。
派遣会社からの仕事の紹介が滞ってしまった際には、収入や健康保険の空白期間が生じるケースも。
派遣会社や派遣先との契約によっては、国民健康保険に加入する必要があるかもしれません。
一方、特定派遣は専門職が大半を占めていることから、誰もが就けるとは限りません。
一定以上の能力や経験が求められる分、収入も安定しやすい傾向があります。
派遣先との雇用期間も無期限のため、数年から10年単位で仕事をしていた方も珍しくないでしょう。
派遣会社の健康保険や厚生年金保険、雇用保険などの社会保険制度が適用される点も、決して小さくないメリットです。
一般派遣許認可の取得条件
2015年9月30日に改正された労働者派遣法の施行後は、特定派遣が廃止されました。
つまり、それまで特定派遣事業を営んでいた企業も、一般派遣事業への転身を余儀なくされたということです。
企業が一般派遣事業を行う際には、一般派遣許認可の取得条件を満たしている必要があります。
一般派遣許認可の取得条件は以下のとおりです。
内容 | |
---|---|
欠格事由 | ・法人代表者や役員などが法令を遵守し、刑事罰を受けていないこと ※労働基準法、最低賃金法、職業安定法など |
許可基準 | ・複数の企業に対する派遣事業であること ※専ら派遣ではない ・適切な雇用管理 |
資産要件 | ・基準資産額2,000万円以上(1事業所につき) ※基準資産額=資本総額-(営業権+繰延資産)-負債総額 ・基準資産額が負債総額の7分の1以上 ・1,500万円以上の現金や預貯金 ※個人名義、1事業所につき |
事業所要件 | ・事業用の面積が20㎡以上であること ・風俗営業の密集地でないこと ・派遣元責任者や職務責任者の席の存在 ・研修、面談スペースの設置 ・鍵付きキャビネットなどの設営 |
派遣元責任者の選任 | ・派遣元労働者100名につき1名を選任 |
派遣元責任者の要件 | ・派遣元責任者業務への専任が可能である ・労務管理経験3年以上 ・派遣元責任者講習の受講(過去3年以内) |
厳しい資産要件
一般派遣許認可には、厳しい資産要件が設定されているのが特色です。
事業所の数に応じた資産要件を次の表にまとめてみました。
事業所の数 | 資産要件 |
---|---|
1つの事業所 | 基準資産額:2,000万円以上 自己名義の現金や預貯金:1,500万円以上 |
2つの事業所 | 基準資産額:4,000万円以上 自己名義の現金や預貯金:3,000万円以上 |
5つの事業所 | 基準資産額:1億円以上 自己名義の現金や預貯金:7,500万円以上 |
10の事業所 | 基準資産額:2億円以上 自己名義の現金や預貯金:1億5,000万円以上 |
基準資産額は、資産総額-(営業権+繰延資産)-負債総額にて算出可能です。
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資産総額-(営業権+繰延資産)-負債総額
なおかつ、基準資産額が負債総額の7分の1以下であることも条件に加えられます。
自己名義の現金や預貯金を合わせた金額も、1事業所につき1,500万円が必要です。
特定派遣の廃止について
特定派遣が廃止によって、派遣事業はどのような変化を迫られたのでしょうか?
ここからは、特定派遣の廃止の理由と特定派遣の廃止による懸念点をご紹介します。
派遣法の改正による、2015年9月30日に特定派遣事業の廃止の理由
労働者派遣法の改正によって、2015年9月30日より特定派遣事業が廃止されました。
正確には届出を行った事業者に対して2018年9月29日までの特定派遣事業を認めたため、完全な廃止は2018年9月30日です。
特定派遣が廃止された理由として、以下の2点があげられます。
不安定な雇用形態
特定派遣の雇用期間は無期限に設定されているのが特徴です。
本来なら「無期限=長期的な雇用」と捉えるのではないでしょうか。
ただし見方を変えれば、雇用期間が無期限ということは、短期的な雇用も選択肢のひとつとして浮上します。
しかも常用雇用であれば、正社員でなくても良いのではないか?と捉えることも可能です。
そのことから、派遣先企業の中には契約社員などの非正規雇用を採用するケースも。
安定しやすいはずの特定派遣にもかかわらず、不安定な雇用形態が問題視されたことが特定派遣の廃止へとつながりました。
給与を支払わない人員整理
特定派遣事業は届出制にてスタートできるメリットがありました。
そのため資産や運営資金が乏しい事業者も、特定派遣事業を始めることが可能です。
経営が波に乗っている状況であるからこそ成立していた事業も、ひとたび業績が悪化すると経費などの削減を余儀なくされます。
経費の中でも確実に発生するものは「人件費」。
人件費を少なくするために、多くの場合、行われるのは従業員のリストラです。
特定派遣労働者に給与を支払わずに人員整理(解雇)に踏み切る事業者が増えたことも、特定派遣の廃止の理由のひとつとなりました。
特定派遣の廃止による懸念点(偽装請負)
特定派遣の廃止による懸念点には、偽装請負の大量発生があげられます。
偽装請負を正しく理解するために、労働者派遣事業と請負を比較してみましょう。
労働者派遣事業
- 派遣元事業主⇔派遣先(労働派遣契約)
- 派遣元事業主⇔派遣労働者(雇用関係)
- 派遣先⇔派遣労働者(指揮命令関係)
労働者派遣事業では、派遣労働者は派遣元事業主に雇用されています。
派遣労働者の実際の職場は派遣先です。
派遣先の担当者からの指示や仕様に従い、仕事を進めていきます。
派遣労働者への賃金は、派遣先より派遣元事業主を経由した支払方法です。
そのため、派遣先から支払われた人件費より、派遣元事業主が諸経費(事務手数料)を差し引いた金額が派遣労働者に支払われます。
請負
- 注文主⇔請負業者(請負契約)
- 請負業者⇔労働者(雇用関係)
請負は案件(仕事)を完成させることで、注文主から請負業者に報酬が発生。
請負業者は労働者に対して、報酬から諸経費(事務手数料)を差し引いた金額を支払います。
請負では注文主から案件(仕事)の完成に向けた指示や命令を、労働者に与えることはありません。
偽装請負
- 注文主(派遣先)⇔請負業者(請負契約)
- 請負業者⇔労働者(雇用関係)
- 注文主(派遣先)⇔派遣労働者(指揮命令関係)
偽装請負は、労働者派遣事業のように見せかけた請負契約です。
本来の請負契約であれば、注文主である派遣先から指示や命令を下すことは認められていません。
偽装請負の問題点には次のようなものがあります。
- 残業代が支給されない
- 健康保険、厚生年金保険、雇用保険への未加入
- 中間搾取⇒労働基準法違反
参考資料:厚生労働省・都道府県事務局「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」
まとめ
ここまで、特定派遣の廃止に関する以下の項目を紹介してきました。
- 特定派遣とは?
- 一般派遣と特定派遣の違い
- 一般派遣とは?
- 一般派遣許認可の取得条件
- 特定派遣の廃止について
派遣労働者として契約を結ぶ際には、派遣元事業主が一般派遣許認可の取得をしているのか?を必ずチェックしておきたいところです。
派遣元が一般派遣事業者でない場合には、偽装請負などのリスクも想定されます。
自身の健康や生活を守るためにも、正しい知識を共有することが大切です。